旧同和対策事業対象地域の課題について(大阪府)

平成28年1月22日

旧同和対策事業対象地域の課題について
―実態把握の結果及び専門委員の意見を踏まえて―

大阪府府民文化部人権局

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 旧同和対策事業対象地域の課題について(Word版)(大阪府HP)

 旧同和対策事業対象地域の課題について(PDF版)(当サイト)

1.はじめに

 (1) 経緯

 平成13年9月の大阪府同和対策審議会答申「大阪府における今後の同和行政のあり方について」(以下「平成13年答申」という。)及び平成20年2月の大阪府同和問題解決推進審議会提言に基づき、大阪府は同和問題の解決に向けて一般施策による取組みを進めてきている。
 
 旧同和対策事業対象地域1(以下「対象地域」という。)に見られる課題については、平成13年答申において、特別措置としての同和対策事業により「かつての劣悪な状況は大きく改善された」ものの、「進学率、中退問題など教育の課題、失業率の高さ、不安定就労など労働の課題等が残されているとともに、府民の差別意識の解消が十分に進んでおらず、部落差別事象も跡を絶たない状況である」と指摘されている。また、「住民の転出入が多く、特に学歴の高い層や若年層が転出し、低所得層、母子世帯、障害者など、行政上の施策等による自立支援を必要とする人びとが来住している動向がみられる。」とされている。

 (2)実態把握の実施

 大阪府では、平成13年答申で指摘された、対象地域に見られる生活実態面の課題がどのように推移しているのかを把握し、適切かつ効果的な一般施策の取組みを進めていくために、行政機関が福祉や教育等の様々な行政施策を実施する中で既に保有しているデータを集計・分析する「行政データを活用した実態把握」を平成17年度及び同23年度に対象地域が存在する市町2(以下「関係市町」という。)とともに実施した。
 その結果、対象地域では関係市町の全体と比較して生活保護受給率が高いこと、大学進学率が低いことなど、依然として課題が見られることがわかった。
 
 しかし、平成13年答申で指摘された課題のうち、失業率の高さ、不安定就労など「労働の課題」については、「行政データを活用した実態把握」では関連するデータがなく、十分に把握できなかった。

 そこで、平成22年の国勢調査データを集計・分析し、行政データでは十分に把握できなかった課題の推移を把握することを目的として、「国勢調査を活用した実態把握」を実施した。

 その結果として、対象地域では、大阪府全域と比較して非正規労働者の割合が高いこと、完全失業者の割合が高いことなど、依然として課題が見られることがわかった。

 (3)実態把握の結果に対する学識者の意見の聴取

 これらの実態把握の結果については、大阪府同和問題解決推進審議会において数次にわたって報告してきたところである。

 実態把握の結果からは、対象地域等に見られる生活実態面の課題について、一定の傾向を示すデータが把握できたが、今後の大阪府の取組みの参考とするために、これらのデータや対象地域の課題など、実態把握の結果をどのように捉えるべきかについて、同和問題や差別論を専門とする学識者を大阪府同和問題解決推進審議会の専門委員に委嘱して幅広く意見を聴取した。

2.実態把握の概要及び専門委員からの意見聴取

 大阪府が今回実施した実態把握及び専門委員からの意見聴取の概要は、次のとおりである。

 (1)実態把握の概要

 ①行政データを活用した実態把握

 大阪府及び関係市町が、福祉や教育等、様々な行政施策を実施する中で既に保有しているデータを活用して、以下に記載する項目について、平成23年度における対象地域に係るデータと関係市町の全体のデータの集計を行ったものである。また、平成12年度に実施した実態等調査3(以下「平成12年調査」という。)及び平成17年度に実施した「行政データを活用した実態把握」の結果等と比較・分析を行っている4

  【項目】
   1)年齢階層別人口構造(男女別)
   2)世帯の状況
   3)住民税課税人口の状況
   4)生活保護受給世帯の状況
   5)障がい者手帳所持者の状況
   6)福祉医療助成受給者の状況
   7)介護保険制度 要介護認定者の状況
   8)ホームヘルパー及びガイドヘルパー派遣世帯の状況
   9)認可保育所入所児童の状況
   10)乳幼児健診未受診児の状況
   11)市町立中学校 進学等の状況
   12)市町立小・中学校 長欠児童・生徒の状況
   13)市町立小・中学校 就学援助利用の状況
   14)府立高等学校 進学等の状況(※)
   15)府立高等学校 中退の状況 (※)

    (※)14)、15)の項目については、対象地域と府全体の状況を比較している。

 ②国勢調査を活用した実態把握

 平成22年の国勢調査データを活用して、以下に記載する項目について、対象地域に係る数値と大阪府全域に係る数値の集計及び分析を行ったものである。

 また、以下の項目のうち可能なものについて、平成12年調査の集計結果との経年比較5を行っている。

 また、平成13年答申における「これまでの同和地区のさまざまな課題は同和地区固有の課題としてとらえることが可能であったが、同和地区における人口流動化、とりわけさまざまな課題を有する人びとの来住の結果、同和地区に現れる課題は、現代社会が抱えるさまざまな課題と共通しており、それらが同和地区に集中的に現れているとみることができる」との指摘について、生活実態面の課題の集中が対象地域以外にも見られるのかどうかを検証するため、「基準該当地域」の考え方6を導入している7

 さらに、対象地域における生活課題の状況が住宅エリアや商工業エリアなどの地域の状況によって異なるのかどうかについて把握するため、対象地域を都市計画法上の区域区分、用途地域により9つに類型化し、大阪府全域と比較した。また、対象地域の特徴を見るため、対象地域に隣接する地域のうち、対象地域と同じ地域類型となっている地域を抽出し、それぞれ対象地域と比較している8

  【項目】
   1)人口・世帯の状況
    1-1)世帯員の年齢構成
    1-2)家族類型(経年比較)
    1-3)世帯類型(経年比較)
   2)教育の状況
    2-1)世帯員の学歴構成(経年比較)(男性)(女性)(年齢階層別)
   3)労働の状況
    3-1)労働力状態(経年比較)
    3-2)労働力率(年齢階層別)
    3-3)就業率(年齢階層別)
    3-4)完全失業率(年齢階層別)
    3-5)従業上の地位(経年比較)(年齢階層別・男性)(年齢階層別・女性)
    3-6)職業構成(年齢階層別)

   4)住まいの状況
    4-1)住宅の所有形態(経年比較)
   5)移動者(転入者)の状況
    5-1)移動者(転入者)の状況
    5-2)現住地居住期間と世帯類型
    5-3)現住地居住期間と学歴構成
    5-4)現住地居住期間と従業上の地位
    5-5)現住地居住期間と住宅の所有形態

 (2)専門委員からの意見聴取

  ①専門委員の選任
 大阪府同和問題解決推進審議会規則第4条9に基づき、同和問題や差別論に関する学識者の中から、以下の4名を同審議会専門委員として委嘱し、実態把握の結果をどのように捉えるべきかについて意見を聴取した。

    氏名   所属
 髙田 一宏  大阪大学大学院人間科学研究科准教授
 灘本 昌久  京都産業大学文化学部教授
 西田 芳正  大阪府立大学地域保健学域教育福祉学類教授
 三浦 耕吉郎 関西学院大学社会学部教授
                                                                                     (50音順・敬称略)
 
  ②意見聴取の内容
    以下の論点を設定し、それぞれの項目について意見聴取を実施した。

  ≪論点≫
    人口の流動化が進み、「対象地域」を取り巻く状況が大きく変化する中で、今日において対象地域に生じている課題をどう捉えるべきか。

  ≪実施日時及び内容≫

    年月日    項目        備考
第1回 平成27年6月15日      全体会合
   ・実態把握の結果の受け止め方

第2回 平成27年8月11日~24日   個別に実施
   ・今回の実態把握の評価
   ・対象地域に課題が集中する要因
   ・対象地域とそれ以外の地域における、課題が集中する要因の違いの有無
   ・対象地域における生活実態面の課題と部落差別との関わり
   ・専門委員が想定する地域、個人を特定した調査
   ・今日における対象地域の課題の捉え方

第3回 平成27年10月27日~11月6日  個別に実施
   ・第2回聴取意見の確認
   ・実態把握及び専門委員の意見を踏まえた取りまとめについて

3.実態把握の結果及び専門委員の意見から推認できること  

 「行政データを活用した実態把握」及び「国勢調査を活用した実態把握」の結果ならびに専門委員から聴取した意見から、下記のことが推認できる。

 ○対象地域で見られる課題の現れ方は多様であり、一括りにすることはできない。
 ○対象地域と同様の課題の集中が、対象地域以外にも見られる。
 ○対象地域で見られる課題は、必ずしも全てが部落差別の結果と捉えることはできない。

 具体的には次のとおりである。

対象地域で見られる課題の現れ方は多様であり、一括りにすることはできない。

① 対象地域に依然として課題が見られる

 国勢調査等を活用した実態把握の結果からは、対象地域に、大阪府全域と比べて様々な点で依然として生活実態面の課題があることが確認できる。

 例を挙げると、表1-1から、対象地域では大阪府全域と比べて、最終学歴が小・中学校卒の割合が高い一方で、大学・大学院卒の割合が低い。また、対象地域では完全失業者の割合及び非正規雇用比率は大阪府全域と比べて高いことがわかる。

 表1-2から、対象地域では全体10に比べて住民税非課税人口の割合、生活保護受給世帯の割合及び府立高校生の中退率が高く、大学・短大進学率が低くなっている。

 なお、経年比較では、大学・短大進学率や中退率は改善傾向にある。また、対象地域で数値が悪化した項目は全体でも悪化しており、対象地域で数値が改善した項目は全体でも改善を示している。

対象地域の課題_表1-1
対象地域の課題_表1-2

② 対象地域の課題の現れ方は地域類型により一律ではない

 「国勢調査を活用した実態把握」において、対象地域における生活課題の状況が住宅エリアや商工業エリアなどの地域の状況によって異なるのかどうかについて把握するために、対象地域を都市計画法上の区域区分・用途地域別に、表2-1のとおり9つに類型化した。

対象地域の課題_表2-1 対象地域を類型化して、それぞれの項目を見てみると「第一種・第二種中高層住居専用地域」、「第一種・第二種住居地域」及び「準工業地域」については、対象地域全体の課題の傾向とほぼ同様の傾向となっているが、対象地域全体の傾向と大きく異なる傾向を示す用途地域もあることがわかる。

 例として、表2-2にあるとおり、居住者の学歴構成では、「近隣商業地域」や「商業地域」における大学・大学院卒業者の比率が、「第一種・第二種住居地域」、「準工業地域」や「工業地域」に比べて2倍程度となっている。

 また、労働者の非正規雇用比率では、「工業地域」や「市街化調整区域」は、「第一種・第二種中高層住居専用地域」や「第一種・第二種住居地域」よりも低く、大阪府全域と比べても同等程度であることなどが挙げられる。

 このように、対象地域の中でも、地域類型により課題の現れ方は一律ではない。大阪はまちの状況が地域によって、もともと多様であり、こうしたことが、課題の現れ方に反映されていると言える。

対象地域の課題_表2-2

※ 「第一種・第二種低層住居専用地域」及び「準住居地域」は人口規模が小さいため、数値は参考として記載。

③ 対象地域間で課題の状況にはばらつきがある

 「国勢調査を活用した実態把握」において「基準該当地域」の考え方を導入するに当たって、高等教育修了者比率や完全失業率など、表3-1に示す6つの指標を抽出基準として設定している。

対象地域の課題_表3-1
 この抽出基準を対象地域自身にあてはめた場合、表3-2にあるとおり、指標が6つとも該当する地域の人口規模が対象地域全体の10.3%、5つ該当する地域が18.1%12を占める一方で、まったく該当しない地域が19.0%13、1つだけ該当する地域が21.0%14を占めており、対象地域の間でも、課題の状況や課題につながる要素には、ばらつきがある。
対象地域の課題_表3-2

対象地域と同様の課題の集中が、対象地域以外にも見られる。

①対象地域以外で見られる課題の集中

 国勢調査を活用した実態把握においては、対象地域と同様の生活実態面の課題の集中が対象地域以外にも見られるのかどうかを検証するため、p11の表3-1にある6つの指標を抽出基準に用いて、いずれか3つ以上の指標に該当する地域を抽出し、合計したものを「基準該当地域」として15対象地域と比較した。

 その結果を見ると、表4にあるとおり、対象地域の人口規模が約8万人であるのに対して、基準該当地域では人口規模が約41万人となっている。

 このことから、対象地域と同様の課題の集中が、対象地域以外にも見られることが確認できる。

対象地域の課題_表4

②考えられる背景

 実態把握の結果をみると、表5にあるとおり、対象地域において「公営の借家16」に居住する世帯の割合が40.7%、基準該当地域においては45.5%を占めており、大阪府全域において「公営の借家」に居住する人の割合6.3%と比較して、6~7倍の構成比となっていることが確認できた。

 公営住宅や改良住宅は、対象地域をはじめとした多くの地域における生活環境の改善に寄与するとともに、住宅に困窮する低額所得者のセーフティネットとしての役割17を果たしている。

 ただ、制度上、公営住宅の入居者は、収入額に制限があり、収入超過者18又は高額所得者19と認定された場合、住宅を明渡すことを求められる。また、新たに入居する人も低額所得者である。このため、公営住宅や改良住宅が多く整備されている地域においては、結果として、生活実態面の課題を有する人が多く居住することとなり、このことが、課題の集中が見られる背景のひとつと考えられる。
 対象地域の課題_表5

対象地域で見られる課題は、必ずしも全てが部落差別の結果と捉えることはできない。

①対象地域の人口の流動化

 平成12年調査において対象地域の居住者の出生地について調査しており、表6-1にあるとおり、平成12年当時で対象地域の出身でない来住者が36.7%を占めていた。

対象地域の課題_表6-1 また、国勢調査を活用した実態把握でまとめた対象地域の現住地居住期間別の世帯員数を見ると、表6-2にあるとおり、現住地の居住期間が10年未満の住民が約25,000人、対象地域人口の32.0%となっている。

 これには同一対象地域内で転居した場合も含んでいるが、この10年間に対象地域外から移動してきた人が多いと考えることができる。

 一方で、こうした対象地域外からの移動を含めた対象地域の人口は、平成22年に79,411人となっており、平成12年の95,468人から約16,000人減少している。この減少には自然減も含まれているが、この10年間で対象地域の人口がかなり流出したと考えることができる。

対象地域の課題_表6-2 さらに、平成12年調査では「出生地が現住地区」としている人の割合が47.1%であるのに対し、国勢調査を活用した実態把握では、対象地域で出生時から現住地に居住している人の割合は8.6%となっており、大阪府全域の8.8%とほぼ同じである。

 平成12年調査と実態把握では調査方法が異なるため20厳密な比較は困難であるが、対象地域で人口が減少していることを踏まえると、対象地域で出生時から居住している人は大幅に減少していると考えられる。

 これらのことを踏まえると、対象地域の人口の流動化がかなり進んでいると考えられる。

②対象地域の住民の意識

 専門委員の意見によると、対象地域に住んでいることを知っていても、同和問題に関係がないと思っている人もいれば、そもそも住んでいるところが対象地域であるということを知らない人もいる。

 なお、特別対策が実施されていた時期に行われた平成12年調査においても、表7にあるとおり、調査対象者の38.1%が「自分は対象地域出身者であるとは思わない」と回答していた。

対象地域の課題_表7③実態把握の限界

 専門委員の意見によると、歴史的経緯を考慮すれば、対象地域に見られる生活実態面の課題には、部落差別から何らかの影響を受けているものもあると考えられるが、実際に影響があるのか、あるとすればその影響が具体的にどのようなもので、どの程度のものかということは、この実態把握ではわからない。
 
 このように、部落差別の影響の有無や程度などはわからないものの、上記の対象地域の人口の流動化や、住民の意識の状況を踏まえると、対象地域に見られる生活実態面の課題は、必ずしも全てが部落差別の結果と捉えることはできないものと考えられる。

◆参考:対象地域における部落差別の影響の把握について

 対象地域に見られる生活実態面の課題に対する部落差別の影響を把握するには、対象地域の住民を対象として調査対象者を抽出し、それらの対象者に対して調査の趣旨及び居住地が対象地域であることを明示した上で、対象地域出身者であることの自己認識、被差別体験の有無及び生活実態面の課題と被差別体験の関連を聴く必要がある。

 しかしながら、対象地域の所在地名は大阪府個人情報保護条例において、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報として取り扱われており、原則として収集禁止とされているほか、個人情報の外部への提供が原則として禁止されている(※)。

 特別対策としての同和対策事業が終了した現在においては、調査対象者に対して、居住地が対象地域であることを教示し、対象地域出身者であるか否か、差別体験があるか否か等のセンシティブな情報を収集する調査を実施することは困難である。

 また、大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例では、興信所、探偵社業者及び土地調査等を行う者に対して対象地域に関する調査・報告を規制している21

 大阪府は本条例の規制対象ではないが、特別対策としての同和対策事業が終了した現在において、条例により差別防止の観点から規制している行為(対象地域の調査・報告等)を、規制当局である大阪府が行うことは不適切である。
 
 ※ 大阪府個人情報保護条例(抜粋)

【第7条第5項】
 実施機関は、次に掲げる個人情報(中略)を収集してはならない。ただし、(中略)審議会の意見を聴いた上で、個人情報取扱事務の目的を達成するために当該個人情報が必要であり、かつ、欠くことができないと実施機関が認めるときは、この限りでない。
一 (略)
二 社会的差別の原因となるおそれのある個人情報

【第8条】
 実施機関は、個人情報取扱事務の目的以外に個人情報(中略)を、当該実施機関内において利用し、又は当該実施機関以外のものに提供してはならない。
2 前項の規定にかかわらず、実施機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、個人情報取扱事務の目的以外に個人情報を当該実施機関内において利用し、又は当該実施機関以外のものに提供することができる。ただし、(中略)本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。
一~八  (略)
九 前各号に掲げる場合のほか、審議会の意見を聴いた上で、公益上の必要その他相当な理由があると実施機関が認めるとき。

4.実態把握に関連した専門委員からの主な意見

 意見聴取においては、既に記述した以外にも、専門委員から実態把握、部落差別等に関連して様々な意見があった。概要は次のとおりである。

 (1)実態把握に関する主な意見

・ 対象地域に見られる生活実態面の課題への部落差別の影響を把握しようとするのであれば、対象地域の住民に対して、被差別体験の有無や転出入の理由等を聞き取るような調査が必要と考える。
・ 部落差別意識と差別的言動の問題は残っており、生活実態面の課題に関しても、これらの影響がなくなったとまでは言い切れない。それを解明するには、行政が行うのは難しいかもしれないが、詳しい調査が必要だと思う。
・ 差別をなくす目的があるとはいえ、対象地域を特定した調査をするということは、対象地域であることを知らない人にも対象地域であることを教示することになり、かえって差別を引き起こすおそれがある。
・ 特別対策が終了した今、行政が対象地域の住民を特定して調査することは難しいだろう。
・ 行政としては、生活、教育、健康の確保といったレベルの実態把握ができていれば十分ではないか。
・ この実態把握では平成12年調査にあったような部落差別と課題の因果関係についてのデータが収集できないため、対象地域に見られる課題と部落差別との因果関係の有無について言及することはできない。

 (2)生活実態面の課題に対する大阪府の施策に関する主な意見

・ 生活実態面の課題に関しては、対象地域以外にも課題の集中が見られることから、対象地域も含めて広く対策することが必要と考える。
・ 同和問題に限って格差是正策や貧困対策をするというのではなく、全ての人を カバーする施策を行うことが基本で、その上で特に状況が厳しいところに手厚い対策が必要と考える。
・ 生活困窮者の多い地域においては、NPO等が主体となった、住民と行政をつなぐ地域拠点があった方がいい。
・ 大阪府全域と対象地域の状況を比較すると、若い世代において格差がかなり残っているということは重要なポイントである。

 (3)部落差別に関する主な意見

・ 対象地域の人の生活史に関する調査をすると、日常的にそれほど差別は受けていない人や、居住地が対象地域であることを知らない人も多い。
・ 部落差別の原因は江戸時代の身分差別にあるという見解で同和対策事業が行われてきたが、今になって、部落差別の原因を中世にさかのぼる人や、近代になって出てきたというようにみる人もいて、同和問題が生み出される原因の解明がまだなされていないと考える。
・ 近代以降、都市部の部落では流動化が激しくなっており、昔ながらの仕事、血筋(身分)、地域が一体となった部落差別は現在では存在しない。しかし、部落差別とマイノリティや貧困などの問題とが混じり合っており、それによって地域が社会的排除の対象とされていることが「部落問題」であると考える。その意味からすると、「対象地域の課題は必ずしも全てが部落差別の結果と捉えられない」という表現は適切でないと思う。
・ 基準該当地域のような、対象地域と同様に生活上の困難を抱えている地域は昔から存在していた。また、当時から、対象地域の課題の中には、部落差別によるものと、他の地域とも共通する貧困等の課題が混在していた。したがって、平成13年答申の「これまでの同和地区のさまざまな課題は同和地区固有の課題であった」という認識は妥当性を欠いていたと考える。
・ 大阪では、被差別部落の産業が比較的残っている印象がある。被差別部落の産業があると、生活の安定という点ではいいが、そこが部落だという周囲の視線は残りやすい。

 (4)対象地域における人口流動化に関する主な意見

・ 改良住宅や公営住宅の整備により、対象地域の環境改善が進んだことは良かったが、いろいろな階層や年齢層の人が定住できず、結果的に対象地域に低額所得者が集住するようになってしまっている。
・ 現住地居住期間10年未満の住民の割合を対象地域と大阪府全域で比べると、対象地域の割合が低くなっており、最近10年間で、大阪府全域に比べて対象地域に移動してきた住民の割合が低いと考えられる。また、対象地域の人口も減少していることから、今回の実態把握から指摘できることは、人口の流出入というよりも、対象地域外への人口の流出だと思う。
・ 対象地域の公営住宅でも、駅に近いなど利便性の高いところは外部から人が入ってきているが、利便性の低いところはあまり人が入ってきていない。公営住宅も一括りにすることはできない。
・ 改良住宅は、公営住宅と異なり、制度上、本来は住民が永続的に入居可能なものとして整備されたが、後に改良住宅にも導入された公営住宅と同様の家賃体系が、所得水準の上昇した住民の流出を促したと言える。

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1 平成13年度まで特別措置としての同和対策事業を実施してきた地域(平成12年度に大阪府が実施した「同和問題の解決に向けた実態等調査」の対象地域)。
2 技術的理由等により、一部市町のデータが含まれていない。
3 平成12年5月に、大阪府が実施した「同和問題の解決に向けた実態等調査(生活実態調査)」。対象地域における満15歳以上の者の中から、層化無作為抽出法により、調査対象者として10,000人を抽出し、調査・集計したもの。
4 この調査結果については、平成25年2月に同和問題解決推進審議会で報告。
5 国勢調査は悉皆調査、平成12年調査は抽出調査であり、調査方法が異なるため厳密な比較は困難であるが、おおよその傾向を見るため「経年比較」として示している。
6 有識者の知見を得て6つの指標を設定し、いずれか3つ以上の指標に該当する地域を抽出し、合計したものを「基準該当地域」として対象地域と比較している。p11及びp12参照。
7 この段落までの内容については、第一次報告として平成26年9月に同和問題解決推進審議会で報告。
8 この段落の内容については、第二次報告として平成27年2月に同和問題解決推進審議会で報告。
9 規則第4条「審議会に、専門の事項を調査審議させるため必要があるときは、専門委員若干人を置くことができる。」
10 各項目の比較対象としての「全体」については、p3参照。
11 制度の変更がなされていることから、数値の増減について単純比較は困難である。
12 指標数5の累積28.4%-指標数6の累積10.3%から算出。
13 指標数0の累積100%-指標数1の累積81.0%から算出。
14 指標数1の累積81.0%-指標数2の累積60.0%から算出。
15 「基準該当地域」は、課題の集中が対象地域だけに現れているかを検証するための調査上の手法として導入したものであり、特定の地域を指し示すものではない。
16 「公営の借家」には、公営住宅と改良住宅(住宅地区改良法に基づく住宅地区改良事業等により建設された住宅)が含まれる。
17 公営住宅法第1条「この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。」
18 公営住宅法第28条第1項 「公営住宅の入居者は、当該公営住宅に引き続き三年以上入居している場合において政令で定める基準を超える収入のあるときは、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない。」
19 公営住宅法第29条第1項 「事業主体は、公営住宅の入居者が当該公営住宅に引き続き五年以上入居している場合において最近二年間引き続き政令で定める基準を超える高額の収入のあるときは、その者に対し、期限を定めて、当該公営住宅の明渡しを請求することができる。」
20 平成12年調査は抽出調査であり、出生地が現住の対象地域か否かを聞いているが、実態把握は悉皆調査である国勢調査に基づいており、現住地の居住期間から推定している。
21 大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例第5、第7及び第12条。

◆参考:対象地域における部落差別の影響の把握について

(注)これは大阪府府民文化部人権局「旧同和対策事業対象地域の課題について」p.16(2016.1.22.)に掲載されているものです。人や地域を特定した調査をしてはならないことを明らかにした貴重な内容です。

◆参考:対象地域における部落差別の影響の把握について

 対象地域に見られる生活実態面の課題に対する部落差別の影響を把握するには、対象地域の住民を対象として調査対象者を抽出し、それらの対象者に対して調査の趣旨及び居住地が対象地域であることを明示した上で、対象地域出身者であることの自己認識、被差別体験の有無及び生活実態面の課題と被差別体験の関連を聴く必要がある。
 
 しかしながら、対象地域の所在地名は大阪府個人情報保護条例において、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報として取り扱われており、原則として収集禁止とされているほか、個人情報の外部への提供が原則として禁止されている(※)。
 特別対策としての同和対策事業が終了した現在においては、調査対象者に対して、居住地が対象地域であることを教示し、対象地域出身者であるか否か、差別体験があるか否か等のセンシティブな情報を収集する調査を実施することは困難である。
 
 また、大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例では、興信所、探偵社業者及び土地調査等を行う者に対して対象地域に関する調査・報告を規制している21。
 大阪府は本条例の規制対象ではないが、特別対策としての同和対策事業が終了した現在において、条例により差別防止の観点から規制している行為(対象地域の調査・報告等)を、規制当局である大阪府が行うことは不適切である。
 
 ※ 大阪府個人情報保護条例(抜粋)
 
 
 

大阪における同和教育終結への課題(1998)

大阪における同和教育終結への課題(1998)

 矢田事件以来吹き荒れた大阪における解放教育、運動団体と行政が加担した誤りの責任は余りにも重い。すべてを差別という視点に矮小化したところに誤りの根源がある。

「どの子も伸びる」1998年4月掲載

1.「解放教育」の発生と大阪

 1969年に引き起こされた大阪の矢田事件、それは部落排外主義の台頭のもと、「同和教育」を「解放教育」と改称し始めていた「解同」中央本部の方針のもとで、必然的に引きおこされた事件と言えるのではないだろうか。

 矢田事件とは「組合員の皆さん、労働時間は守られていますか。進学のことや同和のことなどで……」という組合役員選挙での挨拶状が一方的に差別文書とされ、記載者が「解同」府連幹部等二百人以上から脅迫、つるし上げを受けるといった事件である。

 裁判の結果は、結局、最高裁で「解同」幹部に有罪、また、差別と断定し強制配転、研修を押しつけた大阪市教委にも賠償命令が確定した。この事件の引き起こされ方一つを見ても、「解放教育」が、部落排外主義の部落解放運動の忠実な僕であったことがわかるのではないだろうか。

 それでは、裁判の結果が示したように、教育の分野で「解放教育」は正されているのだろうか。決してそうは言えない。大阪市教委はなお、矢田事件に対する謝罪を行っていないし、大阪府教委は解放教育研究会の編集による解放教育読本「にんげん」の無償配布を続けている。

2.解放教育読本「にんげん」と大阪

 雑誌「部落解放」第10号(1970年10月発行)は、解放教育読本「にんげん」の出発点を特集していて興味深い。まず、その中のいくつかの文章を紹介する。

 「にんげん」は全国解放教育研究会の編集によるものである。この「会」は部落出身教師と部落解放運動にかかわる教師・活動家によって組織されており、部落解放同盟中央本部教育対策部に属した研究組織である。だが、編集・作成にあたっては多様な要求が結集され、多くの組織が関係してすすめられてきた。

 現在の教育の内容と体制が、部落差別に全く無関心であるばかりではなく、明らかに差別を容認し、さらにこれを助長するものであることは繰り返し述べてきたところである。それは検定教科書のいずれを取り上げてもただちに指摘できる。学習指導要領はその内容において差別性をもち、その拘束性において解放教育創造のための教育現場 の闘いを圧迫し続けてきた。

 「にんげん」は権力によって他律的におしつけられたものではなく、逆に権力による不当な教育支配を打ち破る武器として積極的に活用できるものであり、すでにのべた通り、解放教育をすすめるために私たちが作成に参加し、その無償配布を要求したものである。  「にんげん」の内容は、教科の領域、集団指導の領域、部落問題、部落解放運動にかかわるものによって構成されている。それは、いずれも今日の解放教育の諸課題と解放運動の状況を、子どもの発達に即して教材化されたものである。

 これらの文章は、解放読本「にんげん」がつくられた出発点をよく表している。

 しかし、そもそも、部落解放の武器として行政に読本の無償配布を要求することが正しいことであったのだろうか。しかも、運動団体に所属する研究部によって編集されたものを。いくら教科書検定や指導要領に差別性と拘束性があったとはいえ。

 部落排外主義の糾弾路線は、府教委を屈服させ、無償配布をさせたのだが、これこそ教育の自由と自主性を奪っただけでなく、以後推進された「にんげん」実践は、部落問題の特殊化、肥大化の大きな要因をつくり出し、かえって部落問題解決への障害を生み出したのである。大阪ではまだ、それが是正されていない。

3.不公正・乱脈の同和行政と大阪

 同じ雑誌「部落解放」(第10号)のグラビアは、学校建設運動の成果として、○○○中学校の写真を掲載している。35人学級の普通教室、廊下は幅3・5メートル、LLの施設のついた英語教室、そして冷房付の講堂、その下に食堂という具合である。

 果たして、学校建設運動の成果と言えるのだろうか。同じ時期、77億円をかけてつくられた大阪市○○区○小学校には、1000人収容の大食堂やプラネタリュームまでがつくられている。(当時、普通の小学校の建築費は5億円前後)言うまでもなく、このあまりにも異様なコントラストを生みだしたものが、「窓口一本化」行政であった。

 「原罪論」「償い論」を武器に、「解同」が同和行政を自らの管理下においていった結果であった。

 それでは現在、そうした窓口一本化行政は是正されたのかと言えば決してそうではない。大阪府同和対策促進協議会(府同促)、各市同和対策促進協議会(市同促)方式のもとで、補助金、助成金、交付金が湯水のごとく使われているのである。

 1995年度の大阪府の教育にかかわる同和予算を以下紹介すると、同和加配人件費(約62億円)、「にんげん」購入費(約1億円)、府同教補助金(約1000万円)、全同教大会補助金(約1000万円)、部落解放研究所運営補助など研究事業費(約4000万円)である。

 市町村へいけば、市同和教育研究会への交付金、人権啓発協議会への交付金とあげればきりがない。
4.解放教育推進の大阪府同教と各市同教

 「差別の現実かち深く学ぶ」と称して運動を学校教育へと結合させ、「差別の現実に立ち向かい、それを変革していく子ども」と称して、解放の戦士を育てる取り組みが「にんげん」の配布とともに、大阪府同教と各市同教によって推進されている。

 大阪府同教は毎年、「にんげん」実践研究集会や府同教研究大会、そして夏期一泊研を開催し、月一回府同教通信を府下の教職員全員を対象にして配布している。その内容たるや、「同和教育を軸に、教育改革の大展開を」とか、「出会いとつながりを求めて」とか、これまでの「同和原点論」ひきずりながら、反差別だけでなく多文化、共生という視点を加えている。

 最も茶番に思えるのは、すべての研究費を大阪府に依存しながら、その府に対して「同和加配」交渉にのぞんでいることである。府同教通信には、「法のあるなしにかかわらず、差別があるかぎり施策は必要」という府教育長の答弁をかち取ったとはずかしげもなく写真入りで報告している。

 各市同教も府同教とほとんど同じ方針で運営され、法が切れた今年3月以降も、「人権教育の重要な柱として同和教育を推進する」としているところが多い。

 いずれにも共通して言えることは、人的にも財政的にもすべて府や市に依存しながら、府教委や市教委に自らの主張を押しつけているのである。府教委や市教委も心得たものでそれを活用しているのである。府教委から毎年出される「同和教育のための資料」や各市で発行されるパンフレットは府同教や市同教で報告された実践がそのまま載せられているのを見ても一目瞭 然である。

5.「人権教育」への転換と大阪

 1995年、第49回国連総会で「人権のための国連の10年」が採択された。それを受けた日本政府はいち早く反応し、翌年国内行動計画を策定した。この背景には、言うまでもなく、1997年3月末の同和事業法の期限切れから人権擁護施策推進法の成立へと移行する政府の動きがあった。一言で言うなら、解同の要求してきていた「部落解放基本法」の落としどころとして、国連十年、人権擁護施策推進法に軟着陸させたのである。

 文面を比較すればわかるが、国連10年の内容は人権に関する情報提供や包括的な人権について述べているが、国内行動計画では人権概念を差別意識の問題に倭小化し、しかも啓発や特別な人権教育を強調しているのである。つまり、国連の提起を、人権擁護施策推進法と似たものに歪曲したのである。

 この国内行動計画を全国に先がけて実施に移そうとしているのが大阪府であり、昨年三月に大阪府は行動計画を策定した。そこでは、学校や職場における人権教育の推進としてより体系的、実践的な人権プログラムの必要性と、対象者がより主体的に参加できる手法を求めている。  現に今、それに沿って「人権教育」を特別なものとしてカリキュラム化してきている学校が現れている。

 国連の人権10年は1995年から2004年である。国連の提起する人権の拡大のためにも、歪められた行動計画を批判し、同和教育の終結の取り組みをすすめることこそが大切である。