どの子も伸びる研究会 めざすもの
1997年2月 月刊誌「どの子も伸びる」掲載
社会認識の形成
社会科は、戦前の教育が非科学的な歴史をもとに人間の尊厳や人格を否定し、侵略戦争を遂行するための人づくりであったことに対する厳しい反省のもとに発足しました。そして、子どもたちに自分が生きている社会を見つめ、考えさせながら、主権者国民として育っていくために必要な科学的な社会認識を育てることを中心課題としてきました。
子どもたちが人間の労働やくらしを見つめ、生産や文化について歴史的・社会的に学ぶことは、先人たちが生活や労働の権利を拡大しながら、生産を高め、くらしを豊かにし、平和を愛し、社会を発展させてきたことを知ることであり、子どもたちの身近にいる父母や地域の人々がそれをしっかりと受け継いでいるのだという事実に触れるこ とです。
子どもたちは、この学習の過程で、自分のものの見方、考え方を育て、価値あるものは何なのかを判断できる力を培っていきます。そして、価値あるものを引き継ぐ主体が自分であることが自覚化されていくとき、人権認識が形成されていきます。
日本の教職員は、子どもたちに社会のさまざまな事実を学ばせ、科学的な社会認識を形成していくことが「主権者としての国民」を育てていく基礎になると考え、実践を積み重ねてきました。
私たちは、科学的な社会認識を子どもたちの発達に即して、系統的に育てるために、次の実践上の課題を重視したとりくみをすすめます。
① くらしの現実を重視するとりくみ
社会科のこれまでのとりくみの中でもっとも大事にされてきたのは「本当のことを、くらしと結んで・どの子にもわかるように」ということでした。「くらしの現実」から親や家族の労働のきびしさを把握し、その中で「願いや要求」を学び合い、社会認識の基礎を育ててきました。現在、子どもたちは自然とのかかわりや家事労働を含めた 生産労働の体験が乏しく、親の労働を具体的に把握しにくくなっています。それだけに、生活綴方と結んでくらしの事実をとらえ、社会認識を育てる実践を大切にします。
② 地域に根ざした学習を重視するとりくみ
地域には人々の生活があり、文化があり、歴史があります・したがって、「地域の学習は、単に小学校中学生の学習課題とするのではなく、全学年の学習の中に地域の教材を生かして実践することが大切です。他の地域との比較やさまざまな例証を地域に求める実践を大切にし、学年に応じて地域の変化・発展を事実に即して学習することを大事にしていきます。
③ 歴史学習を重視するとりくみ
人びとは労働と生産の中で、自分たちのくらしと社会を発展させてきました。その社会の発展法則を歴史的事象・事実、それぞれの時代・地域の生活などから、働く人々の姿を可能なかぎりリアルに学習させることが歴史学習のねらいです。働く人々の姿を歴史的につかませることは人間としてどのように生きてきたかの事実を知ることです。そのことは、未来に生きる人間の指標や励ましになります。
とくに、小学校では歴史事象の変化や時代ごとのおおまかなイメージをつかませることに重点をおき、中学校では、社会の発展の原因.過程.結果に重点をおいた歴史学習を展開します。
④ 憲法学習を重視するとりくみ
日本国憲法は二度にわたる世界大戦と平和を愛する世界の人びとの願いのもとにつくられ、人類の多年にわたる努力のたまものとして日本国民に与えられたものです。そこにはあるべき人間の生き方がしめされており、なかでも平和主義的・民主主義的条項は世界に誇り得るものであることを学び、毎日のくらしの中にいかしていく学習を大切にします。この学習の過程で、戦争をはじめとする非人間的・非人道的な事実に対し、正しく判断し行動できる人格が形成されます。
⑤ 社会認識を形成する授業のとりくみ
子どもたちが日常的に受け入れる社会事象のほとんどはテレビやマスメディアによる情報であり、事象に対する見方、考え方も一方的になり固定化される状況です。教科書はカラフルになっていますが、科学的な認識を育てる内容になっていません。また、歴史の潮流に逆行し、進歩をはばもうとする歴史の記述もあります。その上、低学年社会科を廃止して生活科が設置され、中学校では「選択社会科」が導入され、社会科の時間を削減し新設された「総合的な学習の時間」では現在社会の課題である四領域の学習がすすめられ、科学的な社会認識を育てる教科としての社会科が危うくなっています。こうした実態をしっかりふまえて、授業の内容と方法を工夫し、科学的な社会認識、歴史認識を形成する授業のあり方を追究していきます。