(出典:「同和行政史」 第1編 同和行政の変遷 P78・P79
発行 総務省大臣官房地域改善対策室 平成14年3月)
特別対策を終了する理由
特別対策を終了する理由は何であろうか。主な理由としては次の三つがある。
第一は、国、地方自治体等の長年の取り組みによって、同和地区を取り巻く状況は大きく変化したことである。
総務庁が平成5年度に実施した同和地区実態把握等調査(以下「総務庁実態調査」という。)結果によると、住宅、道路等の物的な生活環境については改善が進み、全体的には、同和地区と周辺地域との格差はみられなくなっている。
これによって、同和対策審議会答申等で指摘されていた物的な生活環境の劣悪さが差別を再生産するような状況は改善されてきた。
差別意識解消に向けた教育・啓発も様々な創意工夫の下に推進されてきた。その結果、例えば、同和関係者が同和関係者以外の者と結婚するケースは大幅に増加の傾向を示しており、差別意識も確実に解消されてきていることがうかがえる。
第二は、このように同和地区が大きく変化した状況で特別対策をなお継続していくことは、同和問題の解決に必ずしも有効とは考えられないことである。
行政施策は、本来、全国民に受益が及ぶように講じられるべきものであり、国民の一部を対象とする特別対策はあくまでも例外的なものである。その上、施策の適応上、地区や住民を行政が公的に区別して実施する特別対策の手法が、差別の解消という同和行政の目的と調和しがたい側面があることも否定できない。
こうしたことから、同和関係特別対策は永続的に講じられるものではなく、期限を限った迅速な事業の実施のためのものとして始められたことは前述の通りであり、全ての特別措置法は時限法とされてきた。
また、特別対策は差別と貧困の悪循環を断ち切ることを目的として始められたものであるが、全国の同和地区を全て一律に低位なものとみていくことは、同和地区に対するマイナスのイメージの固定化につながりかねず、こうした点からも特別対策をいつまでも継続していくことは問題の解決に有効とは考えられない。また、総務庁実態調査によると、教育、就労、産業などの面でなお格差が存在しているところもみられるが、なお存在している格差の背景には様々な要因があり、特別対策によって短期間で集中的に解消することは困難と考えられる。そのため、施策ニーズに対しては、特別対策の事業を継続するよりも、通常の施策を課題に応じて的確に活用していくことのほうが望ましいものと考えられる。
第三は、経済成長に伴う産業構造の変化、都市か等によって大きな人口移動が起こり、同和地区においても同和関係者の転出と非同和関係者の転入が増加した。このような、大規模な人口変動の状況下では、同和地区・同和関係者に対象を限定した施策を継続することは実務上困難になってきていることである。