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歴史の逆もどりは許せない

吉田太一(寝屋川原爆被害者の会)

  ブッシュ米大統領の無法なイラク戦争で核兵器使用を『選択肢から排除していない』の繰り返し発言は、広島・長崎の悲惨な被爆の実態に一顧だにしない大国主義覇者の奢りであり、新たに怒りを憶えるもので改めて、ノーモア・ヒロシマ・ナガサキの声を大にしたい。

 今年の原水爆禁止世界大会は海外からの参加者も多く7000人余の大会は、人類史上かってない規模のイラク反戦の国際的な世論と運動が核兵器廃絶をめざす長年の努力と結びついて反戦平和のうねりに発展させていると…50数年前の一滴にもすぎない反核の経験から今日の巨大な運動の発展に感動をおぼえます。

 1955年(S30)第1回原水爆禁止世界大会が広島で開かれる数年前 「ちちかえせ ははかえせ…」の原爆詩人 峠 三吉氏を先輩機関士と病院に見舞い、依頼をうけた反核ビラを墓参者に配布中、黒人憲兵(MP)2名に威嚇射撃され、必死で逃亡したことをおもいだします。 当時は、反戦反核運動も米軍の占領下で困難な時代でした。

 峠氏は病魔とたたかいながら、1953年、36歳の若さで他界、同じ年、私は国鉄鷹取機関区に転勤、翌年、原因不詳のひどい胃炎で3ヶ月余り 毎日、下痢症状でやせ衰え、約10年間 活動から遠うのいたが、60年代の新安保反対・職場の合理化反対闘争などで活動に復帰。今日の原爆禁止世界大会の規模と発展の状況をみるとき隔世の感があります。

 また、小泉内閣のもとで平和憲法を土足でじゅうりんする有事法制・イラク特措法などの動きに平和を願う被爆者の一人として新たな怒りを強くするものです。

■(解説)

峠三吉の「原爆詩集」の中に「一九五〇年の八月六日」という詩がおさめられてます。1950年の8月6日、平和式典が禁止され武装と私服の警官が配置されたヒロシマの町。デパートの上からビラがまかれる。原爆反対署名の叫び声も反射する。そんな町を峠三吉は歌っています。
 反核ビラを配っていて米軍のMPに威嚇射撃された吉田さんの姿が重なります。

(案内人 柏木 功)

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峠三吉「原爆詩集」より

  一九五〇年の八月六日

走りよってくる
走りよってくる
あちらからも こちらからも
腰の拳銃を押えた
警官が 馳けよってくる

一九五〇年の八月六日
平和式典が禁止され
夜の町角 暁の橋畔(きょうはん)に
立哨(りっしょう)の警官がうごめいて
今日を迎えた広島の
街の真中 八丁堀交差点
Fデパートのそのかげ

供養塔に焼跡に
花を供えて来た市民たちの流れが
忽ち渦巻き
汗にひきつった顎紐が
群衆の中になだれこむ、
黒い陣列に割られながら
よろめいて
一斉に見上るデパートの
五階の窓 六階の窓から
ひらひら
ひらひら
夏雲をバックに
蔭になり 陽に光り
無数のビラが舞い
あお向けた顔の上
のばした手のなか
飢えた心の底に
ゆっくりと散りこむ

誰かがひろった、
腕が叩き落した、
手が空中でつかんだ、
眼が読んだ、
労働者、商人、学生、娘
近郷近在の老人、子供
八月六日を命日にもつ全ヒロシマの
市民群衆そして警官、
押し合い 怒号
とろうとする平和のビラ
奪われまいとする反戦ビラ
鋭いアピール!

電車が止る
ゴーストップが崩れる
ジープがころがりこむ
消防自動車のサイレンがはためき
二台 三台 武装警官隊のトラックがのりつける
私服警官の堵列(とれつ)するなかを
外国の高級車が侵入し
デパートの出入口はけわしい検問所とかわる

だがやっぱりビラがおちる
ゆっくりと ゆっくりと
庇(ひさし)にかかったビラは箒(ほうき)をもった手が現れて
丁寧にはき落し
一枚一枚 生きもののように
声のない叫びのように
ひらり ひらりと
まいおちる

鳩を放ち鐘を鳴らして
市長が平和メッセージを風に流した平和祭は
線香花火のように踏み消され
講演会、
音楽会、
ユネスコ集会、
すべての集りが禁止され
武装と私服の警官に占領されたヒロシマ、

ロケット砲の爆煙が
映画館のスクリーンから立ちのぼり
裏町から 子供もまじえた原爆反対署名の
呼び声が反射する
一九五〇年八月六日の広島の空を
市民の不安に光りを撒き
墓地の沈黙に影を映しながら、
平和を愛するあなたの方へ
平和をねがうわたしの方へ
警官をかけよらせながら、
ビラは降る
ビラはふる

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底本: 新編 原爆詩集
出版社: 青木書店
初版発行日: 1995(平成7)年7月7日
入力に使用: 1995(平成7)年7月7日第1版第1刷
校正に使用: 1999(平成11)年7月10日第1版第3刷
底本の親本: 原爆詩集
出版社: 青木書店
初版発行日: 1952(昭和27)年6月
入力: 広島に文学館を! 市民の会
入力: 福田真紀子
校正: LUNA CAT
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※このファイルには、以下の青空文庫のテキストを、上記底本にそって修正し、組み入れました。
「原爆詩集」(入力:広島に文学館を! 市民の会、福田真紀子、 校正:LUNA CAT)
青空文庫作成ファイル:http://www.aozora.gr.jp/cards/001053/files/4963_16055.html
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